相続放棄しても遺族年金をもらえるのは本当だった!その理由とは?

遺族年金 2020.01.07

人は現金などのプラスの財産ばかりではなく、時には借金などのマイナスの財産を残して亡くなる場合もあります。

ただ、もし相続するものがマイナスの財産しかない場合でも、果たして本当に相続放棄しても良いものなのか?判断に悩むところではありますよね。

相続の問題は民法だけでなく税法上の問題も絡んでくるため、私たちにはなかなかわかりづらい面があります。

ただ、相続には申告期限が決められており、さらに相続放棄してしまうとプラスの財産を引き継ぐことができないという問題もあるのです。

そのような中で相続放棄をしようと考えた場合、気になるのが「遺族年金」や「未支給年金」までも受給できなくなるのか?ということ。

実は相続放棄しても、遺族年金や未支給年金を受け取ることが可能なのです。

そこで今回は、相続放棄しても遺族年金や未支給年金を受給できる理由や、相続放棄によって受け取れる財産・受け取れない財産についてわかりやすく解説していきたいと思います。

万が一に備えて知っておこう!遺族年金や相続放棄の仕組みとは?

大切な家族が亡くなることはあまり考えたくはありませんが、かといって何も準備せずにいざその時が来ると慌ててしまうもの。

そこで、万が一に備えて知っておいた方がいい「遺族年金」と「相続放棄」についてご紹介したいと思います。

遺族年金は誰に受給資格があるの?種類や仕組みを解説

遺族年金とは、国民年金や厚生年金の被保険者が亡くなった場合に生計を維持されていた家族に支給される年金のこと。

ちなみに遺族年金とは総称であり、具体的には2つの種類に分かれます。

遺族年金の種類
  • 遺族基礎年金
  • 遺族厚生年金
ちなみに共済年金は、2015年10月に厚生年金へ統一されました。

注意しなければならないのは、生計を維持されていた家族だからといって必ず遺族年金が支給されるとは限らないということ。

亡くなった被保険者との続柄や性別、年齢などによって受給できる遺族年金の種類や受給額が異なってきます。

遺族年金の受給額など詳しいことを知りたい方は、次の記事をご覧ください。

相続放棄ってどのような制度?遺族にとってメリットはあるの?

亡くなった方の財産を引き継ぐことを相続といいますが、あえて「引き継がない」という選択もあります。

せっかくの財産を引き継がないなんて、なんでそんなもったいないことするんスか?
被相続人の財産がプラスとなるものばかりならいいのですが、借金などのいわゆる「マイナスの財産」を引き継いでしまう場合もあるからです。

たとえば亡くなった方に借金が多かった場合、その負債を引き継ぎたくないですよね?こういった場合には相続放棄することも考えましょう。遺族が負債を引き継がなくても済む、これが相続放棄のメリットです。

ただし、借金があるからという理由だけで相続放棄をしてしまうと、自宅などのプラスの財産も放棄してしまうことになります。

難しいケースは専門家に相談してみましょう。

相続放棄しても大丈夫!「遺族年金」はもらえるという判例あり

借金をしている身内がいると、先ほどご紹介した「相続放棄」も視野に入れて検討されていることでしょう。ただ、相続放棄をしてしまうとプラスの財産もあきらめなければなりません。

そこで問題なのが、「遺族年金」は相続財産としてカウントされるのか?ということ。

結論を言うと、遺族年金は相続財産としてカウントされません。

つまり、相続放棄しても遺族年金は受給できます。

それなら良かったわ、安心ね!遺族年金まであきらめないといけないなら、その後の生活が大変ですもの。
遺族年金はどうなのかな?と迷ってしまいますよね。でもご安心を!過去の判例により、遺族年金は相続財産に当たらないと示されています。

その判例によると、相続財産と遺族年金は次のような違いがあるとされています。

相続財産と遺族年金の違い
相続財産 被相続人(亡くなった方)の財産である
遺族年金 遺族固有の権利である

つまり、相続と年金はまったくの別ものだということ。したがって、相続放棄する・しないにかかわらず遺族年金は受給できるということになります。

生前にもらいそびれた未支給年金は、相続放棄しても申請可能

相続放棄しても遺族年金をもらえるなら、「未支給年金」はどうでしょうか?

未支給年金とは、本来受給できるはずだった年金をもらわずに亡くなってしまい、もらえずじまいになってしまった年金のことです。

そもそも年金は、2カ月に1回支給されるシステム。前回の年金支給日から亡くなるまでの期間についての年金は、支給されません。

この未支給分についても、遺族は受け取ることができるのです。

相続放棄しても遺族年金と同様、未支給年金は受け取れます

未支給年金については理解したものの、その年金の性質から相続人の固有の財産ではないか?

つまり「相続放棄したら未支給年金は受け取れないのではないか?」と思いますよね。

答えから言うと、相続放棄しても遺族年金と同様に未支給年金を受給することができます。

ただし、遺族年金とは別途申請手続きが必要となります。

未支給年金は亡くなった方が本来もらうはずだった年金。ということは、亡くなった方固有の財産=相続財産にカウントされるように思われるかもしれません。

ただしこの未支給年金を申請できるのは、一定の要件を満たした遺族であると規定されています。

この規定が相続とはまた別の規定である、つまり相続とは別ものであると過去に判例が出ているのです。このことから、相続放棄しても未支給年金を申請できるといえるでしょう。

もし該当する場合は、忘れずに申請するようにしたいですね。

相続放棄しても受け取れる財産・受け取れない財産まとめ

相続放棄しても、遺族年金や未支給年金を受け取れることがわかりました。

では、どのような財産なら受け取れる、もしくは受け取れないのでしょうか?まとめてみました。

相続放棄しても受け取れる財産:遺族年金や未支給年金など

相続放棄しても受け取れる主な財産はこちら。

相続放棄しても受け取り可能な財産
  • 遺族年金
  • 未支給年金
  • 生命保険
  • お墓や仏壇など
  • 埋葬料

相続放棄しても受け取れる財産とは、遺族固有の権利があるもの(遺族年金など)や亡くなった方の埋葬等に係る費用ということになりますね。

ここでポイントとなるのが、相続放棄しても生命保険は受け取れるということ。

はて?相続放棄したのに、生命保険は受け取れるのかい?よくわらかんのう。
そうなんですよ。生命保険は保険金の受取人固有の財産なので、相続放棄しても受け取れるんです。

ただし生命保険は、民法上の相続財産とはなりませんが、みなし相続財産としては扱われます。つまり、相続税を計算する際にはこの生命保険も含まれるということです。

また、生命保険の保険金には非課税となる枠がありますが、相続放棄した場合はこの適用を受けることができません。このように生命保険については、税制上の注意も必要です。

相続放棄したら受け取れない財産:マイホームなど

では反対に、相続放棄したら受け取れない財産とはどのようなものなのでしょうか?

相続放棄した場合に受け取れない財産の例はこちらです。

相続放棄すると受け取れない財産
  • マイホーム
  • 高額療養費などの還付金
  • 死亡退職金

マイホームは立派な相続財産なので、相続放棄した場合には引き継ぐことはできません。(ただし管理責任だけが残る場合があります。)

また高額療養費などの還付金や死亡退職金も、相続放棄したら受け取れません。特に高額療養費の還付金などは謝って受け取ってしまいがちなので注意しましょう。

うっかり受け取ってしまうと、単純承認したとみなされ、相続放棄することができなくなります。

ただし、亡くなった方が高額療養費の受取人ではない場合、また死亡退職金については社内規定により遺族の財産である旨が明記されている場合には、相続放棄しても受け取れることがあります。

相続に関する規定はややこしいので、もし不明点がある場合はお金を受け取ってしまう前に必ず専門家へご相談ください。

年金と財産は全く別のもの!相続放棄しても遺族年金は受け取れる

身内が相続財産もほとんどなく借金ばかりを残して亡くなったとか、逆に自分には残してあげられる財産がほとんどないから家族には相続放棄をさせようと考えているなど、相続放棄を考えるケースは意外とありえるものです。

遺族年金や未支給年金は相続放棄しても受け取れるので、万が一の後の生活を考えるとだいぶ安心できるのではないでしょうか?

ただ、相続放棄しても受け取れる財産があるものの、誤って(還付金などの)受け取れない財産を受け取ってしまった場合には相続放棄できなくなってしまうので注意が必要です。

相続の問題は意外と難しいですし相続税の申告期限も短いので、もしわからないことがあれば専門家に相談するようにしましょう。

※掲載の情報は2019年12月現在のものです。
監修者メッセージ

相続放棄をしても遺族年金と未支給年金を受け取れることは分かりましたが、年金も相続も制度が複雑で判断に迷うこともあります。

遺族年金については社会保険労務士に、相続については弁護士や司法書士などに相談すると、専門的なアドバイスをもらえたり、手続きを代行してもらえることもありますので、ご相談ください。

プロフィール
年金カテゴリー記事監修(高橋淳也)
高橋 淳也
特定社会保険労務士、AFP資格を保有。
日本年金機構、社労士法人勤務を経て開業。中小企業の労務管理に従事する一方、年金相談窓口や無料相談会などで年金相談を受けている。

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