土地売却前の地盤調査は必要?費用やメリット・デメリットを解説
現在、土地売却前の地盤調査が重視されています。売主・買主双方が売却前に地盤の問題を把握し、後のトラブルを防ぐためです。
この記事ではまず、基本的な「地盤調査の種類・費用」についてお伝えします。また土地売却前に地盤調査するかの判断ができるよう、「売却後に行う地盤調査との違い」や「メリット・デメリット」などもまとめました。
後のトラブル防止のため、売主が地盤調査についてきちんと把握をしておきましょう。
土地売却前の地盤調査はSWS試験が主流!費用は5~10万円程度
地盤調査とは、建物を建てる土地が「どれだけの重みを支えられるか」を調べること。主に、次の3種類があります。
・方法:地盤に対して垂直に鉄の棒(ロッド)を差し込み、地盤の強さなどを調査する
・期間:半日~1日
・調査できる深さ:約10m
・費用:5万~10万円程
表面波探査法(レイリー波探査法)
・方法:地面を伝わる振動の速さや範囲によって調査する
・期間:半日~1日
・調査できる深さ:約10m
・費用:10万円前後
ボーリング調査(標準貫入試験)
・方法:地中へ入れた筒状の棒をハンマーで打撃し、30cm埋まるまでの打撃数を調査する
・期間:1日以上
・調査できる深さ:約100m
・費用:15万~25万円程
一般的に住宅用地で行われるのは、安価な「スウェーデン式サウンディング試験(SWS)」。
売却前の地盤調査でも、同じ手法が用いられます。
表面波探査法は「土地に穴を開けない」という利点がありますが、深層部ほど実際と異なるデータが生じることも。ボーリング調査は「広い土地向け」かつ「高価」であるため、主にマンションなど高層の建物を建てる際に用いられます。
ちなみに地盤調査の依頼先は、売却前の場合「地盤調査専門の業者」が一般的です。インターネットなどで複数社検索し、それぞれ見積もりをとってみてもよいでしょう。
売却前に行う地盤調査でわかるのは、おおまかな地盤の良し悪し
「売却前の地盤調査」と「売却後の地盤調査」では次の点が異なります。
売却前 | 売却後 | |
---|---|---|
調査ポイント | 土地の範囲に合わせる | 建物の位置に合わせる |
実施の有無 | 任意 | 基本的に必要※ |
地盤調査は、調査する土地の範囲にあわせて「4隅と中心の計5つの調査ポイント」を決め、そこに機械を設置して行います。
売却前の場合、調査ポイントは土地全体の4隅と中心です。それに対して売却後の場合は、建築予定の建物の位置に合わせてポイントを決めます。そのため正確な調査が可能です。
「10m離れるだけで地盤の強弱は異なる」と言われているため、建物プランが決まっていない売却前の地盤調査でわかるのは、「おおまかな地盤の良し悪し」なのです。
売却前に地盤調査をすることで、売却を円滑に進めることができます
売却前に売主が行う地盤調査には、次のようなメリットがあります。
それぞれ、詳しくみていきましょう。
土地売却前の地盤調査は、瑕疵によるトラブルの防止に繋がります
地盤調査については、「買主が建築前にやるもの」という考え方が一般的。しかし近年、「地盤の問題は売主も責任を負うべき」とする考え方が広がっています。地盤の問題を「瑕疵(かし)」とするからです。
土地の売却後に地盤の問題が発覚し、「地盤改良工事費用の約250万円を売主が負担すべき」とした判決例もあるんですよ。
把握済みの瑕疵はもちろん、知らなかった瑕疵についても売主に責任が問われます。
売却前におおまかでも地盤の問題を把握しておけば、後の瑕疵トラブル防止につながるのです。
ちなみに売主には、瑕疵を買主に伝える義務があります。問題点はどうしても隠したい気持ちが芽生えますが、きちんと伝えて後々のトラブルを防ぎましょう。
地盤調査済みという付加価値がつけば、より高値での売却が期待できる
売却前に地盤調査を行い「地盤調査済み」「安定した地盤」といった付加価値がつけば、高値での売却を期待できます。
さきにも述べましたが、「地盤調査は買主が建築前にやるもの」というのが一般的です。多くの場合、買主は不安なまま高額な土地を購入します。もしかしたら、建物が建てられない土地を買うかもしれないからです。
事前に調査済みである土地なら、買主は安心して購入できます。また、より短期間での売却にもつながるでしょう。
売却後の正確な地盤調査で問題が見つかる可能性もありますから、売買契約書の特約に「瑕疵の責任を売主がいつまで・どれだけ負担するか」を明記しましょう。
売却前の調査で「地盤が弱い」と発覚すると、デメリットが生じます
売却前に調査をして、「地盤が弱い」と発覚する場合も。
その場合、次の2つのデメリットが生じます。
詳しくみていきましょう。
地盤が弱いと、販売価格が下がる!ワケあり物件は希望価格で売れない
売却前の地盤調査で「地盤が弱い」と診断されると、その土地の販売価格を当初の希望から下げざるを得ません。
これは一般的に売主が、「売却前に地盤調査したくない」と考える理由のひとつです。
「土地売却前の地盤調査は、瑕疵によるトラブルの防止に繋がります」でもお伝えしたように、知っている瑕疵は買主に伝えなければいけません。
また売主は、「地盤が弱い土地は買ってもらえないのではないか」という不安を抱えます。
そのため「想定される地盤改良費用の金額を土地代金から差し引く」など、希望よりも低い金額で土地を売らなければならないのです。
ちなみに、地盤改良工事費用の相場は90万~210万円。地盤の状態や工事内容により、変動します。
多少なりとも、土地の価値が下がることには変わりないでしょう。
売却前の地盤改良工事はできない!不動産会社へ相談してみよう
地盤改良工事にも、建物の位置・大きさ・材質などを正確に決めたプランが必要。そのため、買主が建物を建てる直前でないとできないのです。
土地を建て売り住宅などの建物付きで売り出せば、売主が建物プランを決めますから、正確な地盤調査も地盤改良工事も行えます。そして販売価格に、諸費用を含めることも可能です。
ただし多額の初期費用が要りますので、一度不動産会社などへ相談してみるとよいでしょう。
【売却前に地盤調査するか判断する方法】チェックすべき6つの土地
売却前に地盤調査をしたほうがいいのか、判断がつかない方も多いはず。そんなときは次のような土地でないか、チェックしてみてください。
- 近くに川や池などがある
- 前面道路に亀裂などがある
- 埋め立てられた土地である
- 地名が水を連想させる(沢・田・沼など)
- 周辺より低い
- 高低差がある
また過去に水害を受けていたり、周辺の地盤強度に問題があったりする場合も、地盤調査をする方がいいかもしれません。役所など自治体にいけば、「水害ハザードマップ」や「水害履歴」、「近隣の地盤データ」などを見ることができます。
ただしこれらの情報は、いずれも「あなたの土地の正しい地盤情報」ではありません。
調べた結果問題がなくても、不安があれば地盤調査の検討を。
「売却前の地盤調査はやめておこう」それでも注意は必要です
売却前の地盤調査は義務ではありませんから、せずに進めることもできます。その場合も、次の点には注意をしておきましょう。
それぞれ、詳しくみていきましょう。
買主候補から、地盤調査をしてほしいと言われることがある
売主が売却前に地盤調査をしないと決めても、買主候補が希望してくる場合があります。
もちろん、断ることは可能です。
ただしそのままでは、買主は不安のある土地を買うこととなるため、次のようなデメリットが生じる可能性があります。
- 土地を買ってもらえない
- 土地代金から値引きを要求される
売買契約書に「瑕疵担保責任についての特約」をきちんと記載しよう
土地売却で多いトラブルに、瑕疵トラブルがあります。「土地売却前の地盤調査は、瑕疵によるトラブルの防止に繋がります」でもお伝えしたように、「地盤が弱い」と発覚したのが売却後だとしても、売主に責任が問われることがあるのです。
売却後の瑕疵トラブルを防ぐためには、売買契約書に「瑕疵担保責任についての特約」をきちんと明記しましょう。
契約時に買主が気づかなかった欠陥(瑕疵)に対し、売主が責任を負う期間と範囲を定めたもの。民法では「買主は瑕疵を知ったときから1年間、売主に責任追及ができる」としています。
瑕疵担保責任は売主にとってとても重いルールなので、特約をつけて「担保責任の免除」や「担保期間の短縮」をすることが一般的。
土地に瑕疵がある場合に備え、事前の説明と売買契約書への明記を行い、買主にきちんと理解してもらうことが重要。ちなみにこれは、売却前に地盤調査を行った場合にも大切な事柄です。
瑕疵担保責任について、次の記事で詳しく解説しています。
不動産売却で必要な書類については、次の記事も参考にしてみてください。
売却前の地盤調査で「本来の土地の価値」がわかる!慎重に進めよう
しかし売却前に地盤が弱いと分かってしまうと、土地の価格を下げざるを得ません。売主は「土地の価値が下がる」と考えて地盤調査を行わないため、「地盤調査は買主がするもの」というのが一般的です。
ではここで一度、その土地の価値について考えてみてください。
地盤が弱いと分かることで土地の価値が「下がる」のではなく、「本来の価値になる」のではないでしょうか?
また売却後に瑕疵が発覚すると、売主は「地盤調査費用」や「土地代金の値引き分」よりも、多額の損害賠償を支払う可能性があります。
これを防ぐために特約をつけるのが一般的ですが、買主と安心した取引を行うためには、売主側が地盤調査をするということも大切でしょう。
売却前に地盤調査をする・しないに関わらず、土地売却では高額なお金が動きます。慎重に進めていきましょう。
住宅のような規模の建築工事でも、地盤調査を行うようになったのは平成12年6月からです。地耐力に応じて基礎の形式を定める規定が出来て、法的に調査義務は無いのですが、ほぼすべての建築物の工事で地盤調査を行うようになりました。
これからは売主さんが地盤調査を、前もって行う物件が増えるかもしれません。
中古住宅・中古アパートの媒介業務・調査業務に従事し、現在は札幌市内の宅建業者にて専任の取引士を務めている。
2006年より、住宅に関する無料の相談サイトを開設し、住宅リフォームや中古住宅購入の相談に応じている。